2005年度春季大会報告
ニュース120号(2005.7)より
総務 小倉孝誠
2005年度春季大会は、5月28日(土)、29日(日)の2日間にわたり、すでに初夏を想わせる天候の中、立教大学・池袋キャンパスにおいて開催された。立教大学において全国大会が開催されるのは、1986年以来19年ぶりのことである。
大会初日は午前に各種委員会と研究会、昼休みをはさんで午後早くに幹事会と役員会が開催されたのに続いて、5号館1階5122教室において、桑瀬章二郎氏(立教大学)の司会により開会式が行われた。大会実行委員長を務める細川哲士氏(立教大学)が開会の辞を述べた後、開催校代表として総長室長の森秀樹教授から、春季大会の開催歓迎のご挨拶をいただいた。これにたいして菅野昭正会長が、前回1986年に立教大学で開催された大会の思い出に触れながら、答礼の辞を述べた。
14時30分から同じ場所で、吉川一義氏(首都大学東京)の司会のもと、Luc Fraisse 氏(ストラスブール第二大学)の《Proust et le nouvel ecrivain》と題する特別講演が行われた。フランスの聡明な大学人がしばしば示してくれる明晰で、説得的な議論は、プルーストを専門としない会員にも分かりやすく、そのエネルギッシュな口調と相俟って聴衆に強い印象を与えた。会場が大きな階段教室であったにもかかわらず、立ち見の会員が出るほどの盛況ぶりで、講演は成功裡に終わった。特別講演の企画と準備にたずさわった方々には、この場を借りて感謝の意を表したい。
15分ほどの休憩をはさんで、ワークショップが開催された。昨年の秋季大会から始まった企画であり、今回は澤田直(白百合女子大学)、岡村民夫(法政大学)、細川哲士の3氏をコーディネータとして、それぞれ「J・P・サルトルと19/20/21世紀文学」、「パリ映像の世紀」、「ラブレーの今日」というテーマで展開された。いずれのワークショップにも数多くの会員が参加し、熱気あふれる雰囲気のなかで発表が行われた。今後もこの企画が継続し、多様なテーマをめぐってパネラーと聴衆のあいだに生産的な意見交換がなされることを期待したい。
懇親会は、通りをはさんで反対側のキャンパスに位置する第一食堂に場所を移して催された。ツタが這う美しい校舎を目にしながら足を踏みいれた会場は、普段は学食として使用されているということだが、どこか修道院の大食堂を想わせるような趣深い建物であった。小倉和子氏(立教大学)の司会のもと、まず細川哲士氏の歓迎の挨拶があり、続いて Luc Fraisse 氏、ならびにフランス大使館文化担当官 Pierre Koest 氏のお二人から、当学会にたいする励ましの言葉を交えた挨拶をいただいた。乾杯の音頭をとったのは、副会長の柏木隆雄氏である。およそ150名の参加者は、楽しく、なごやかな交歓の時を過ごしたのであった。
2日目の午前は、二部に分かれて16の分科会が設けられ、37名の会員が研究発表を行った。今年は例年に較べて、フランス語学、フランス語教育関係の発表が多かったのが特徴である。また20世紀の文学・思想に関する発表が際立って多いのは、数年前から顕著になってきている傾向で、今回もそれが裏づけられた。いずれの分科会も盛会で、活発な質疑応答が繰り広げられた。
昼食をはさんで、13時半から5号館1階5122教室で、永見文雄氏(中央大学)を議長に総会が始まった。まず会長・副会長の予備選挙の開票結果が選挙管理委員会から報告され、議事と並行して本選挙の投・開票が行われた。その結果、会長には塩川徹也氏、副会長には吉川一義氏と宇佐美斉氏が選出され、それぞれ受諾の挨拶をされた(別掲報告参照)。幹事長(小倉)の不手際を巧みに修正しつつ議事を進行させてくれた永見議長のゆとりある司会ぶりのおかげで、すべての議事はつつがなく終了した。
その後、首都大学東京の大久保康明氏が、旧都立大学問題をめぐる現在までの経緯を報告した。旧都立大学の人文学部改編について、本学会は会長名による「要望書」を2004年1月29日付けで、東京都知事と文部科学大臣に送達している。事は一大学の改編にとどまることではなく、わが国における人文科学系諸学問の存立自体にかかわる、という判断にもとづいての行動であった。当事者である教員諸氏の希望に添わないかたちで、本年4月から新たに首都大学東京が始動したが、本学会としては今後の推移を注意深く見守りたい。
総会終了後、ただちに閉会式に移った。菅野会長が開催校と関係者に謝辞を述べたのに続いて、立教大学の権寧氏の閉会の辞によって、本大会は無事その幕を閉じたのである。参加者総数は580名であった。
近年進行している大学・カリキュラム改革、法科大学院の発足などにより、私立大学では土曜日に授業が組まれることが多く、学会の会場となる教室を確保するのはけっして容易ではない。そのように困難な事情の中、大会を見事な成功へと導いてくださった大会実行委員長細川哲士氏、ならびに立教大学のスタッフの方々にはあらためて深い謝意を表する次第である。また、大会の準備を綿密に進めてくれた事務局書記の丸山理絵さんと漆原みゆきさん、ならびにこの1年間いわば同志として学会運営の仕事にたずさわってきた常任幹事の諸氏にも、この場を借りて深い感謝の念を表明したい。