2004年度秋季大会
ニュース118号(2004.11.25)より
幹事長 小倉孝誠
2004年度秋季大会は、10月2日(土)、3日(日)の2日間にわたり、爽やかな好天のもと北海道大学で開催された。札幌駅にほど近いという恵まれた場所に位置し、正門を入ると快い小径が続き、目に鮮やかな緑や白樺の木に迎えられる。広大なキャンパスと美しい並木には羨望の念を禁じえないほどであった。
大会初日は午前に各委員会、午後早くに幹事会、役員会が開催されたのに続いて、教育研究棟2階W203教室において、佐藤淳二氏(北海道大学)の司会により開会式が行われた。大会実行委員長を務める北海道支部長の高橋純氏(小樽商科大学)の開会の辞の後で、開催校代表として中村睦男北海道大学総長の挨拶があった。クラーク博士創立になる札幌農学校にまで遡る北海道大学の沿革を辿り、現代社会における多文化・多言語研究の必要性をあらためて強調された。しかも、中村総長はフランス語で挨拶してくださったのである! 内容もさることながら、そのこと自体が文化の多元性を唱導するマニフェストとして実に感動的だったことは、会員一同の大きな拍手に示されたとおりである。法学者である中村総長は、かつてフランス政府給費留学生としてパリで学んだことがあり、フランス語で挨拶するという行為をつうじてフランス文化への愛を熱く示してくださった。これに対して、菅野昭正会長が答礼の辞を述べた。
14時30分からは、二部に分かれて14の分科会が設けられ、29名の会員が研究発表を行った。地方大会での発表者数としては特記すべき数字であると思われる。
懇親会は、キャンパスのすぐ南に位置する京王プラザホテルに場所を移して催された。参加者は158名。竹中のぞみ氏(北海道大学)の司会のもと、副会長塩川徹也氏の挨拶、同じく副会長柏木隆雄氏の乾杯の音頭で始まり、和やかな雰囲気のなかで歓談の時が過ごされた。宴の途中では、翌日の講演予定者であるIrene Tamba氏、ならびにフランス大使館文化担当官Pierre Koest氏から、学会にたいする励ましの言葉を交えた挨拶をいただいた。
2日目は、青木三郎氏(筑波大学)の司会のもと、Tamba氏の≪Faire de la linguistique: un peu, beaucoup, passionnement≫と題された特別講演から始まった。タンバ氏は41年前に初めて来日し、広島で教鞭を執った頃の思い出話を発端として、自分がいかにして言語学に関心を抱くようになったかという経緯を興味深く語ってくださった。また御自身の専門領域である「対照言語学」がどのような学問であるかを、具体的でユーモラスな例文を引きながら説得的に論じ、専門を異にする会員にも理解しやすい印象的な講演であった。
引き続いて10時40分から、学会初の試みとして同時進行的に複数の「ワークショップ」が開催された。これは分科会発表やシンポジウムと趣旨が異なり、パネリストと聴衆が同じ地平に立ち、一定のテーマをめぐって活発で率直な意見交換することをめざした企画である。今回は吉田城(京都大学)、高橋純、小倉孝誠(慶應義塾大学)の3氏をコーディネーターとしてそれぞれ「文学と身体 ── 規範と逸脱」、「『ソーカル事件』を考える」、「自己を語るエクリチュール」というテーマで催された。いずれのワークショップにも数多くの会員が積極的に参加し、密度の濃い生産的な質疑応答が繰り広げられた。(別掲記事参照)
昼食をはさんで13時半からは、教育研究棟W203教室で「文化装置としての書物:文学研究の内と外」と題されたシンポジウムが開催された。司会は月村辰雄氏(東京大学)、パネリストは鷲見洋一氏(慶應義塾大学)、長谷川輝夫氏(上智大学)、そして宮下志朗氏(東京大学)である。時代としては中世から19世紀までを広くカバーし、書物、出版、読書など文学をささえる制度的な外部の問題が、社会史や文化史の観点から縦横に語り尽くされた。パネリスト同士が巧みに議論を受けつぎ、テーマの一貫性に配慮しながら発表を展開していったのは、緻密に計算された演出にもとづくものであろう。聴衆との質疑応答に十分な時間を割けなかったことだけが、いくらか惜しまれる。
その後16時より、大平具彦氏(北海道大学)を議長として総会が開かれた。議長のてきぱきとした司会ぶりのおかげもあって、すべての議事はつつがなく終了した。議長の大平氏には一部の支部報告や委員会報告まで代読していただき、あらためて感謝の意を表する次第である。
総会終了後、ただちに閉会式に移った。菅野会長は開催校にたいする感謝の言葉を述べた後、現在進められている学会誌編集方針の変更案作成に関して、いろいろ困難は伴うだろうが学会と会員にとって最善の解決策を模索してほしい、と提言した。最後は江口修氏(小樽商科大学)の閉会の辞によって、本大会は無事その幕を閉じたのである。参加者総数は336名であった。
大学の後期が始まって間もない慌ただしい時期に開催され、「ワークショップ」の企画を立ち上げ、研究会をプログラムに正式に組み入れるなど新たな試みを伴った大会であったが、見事な成功へと導いてくださった大会実行委員長高橋純氏、北海道支部、開催校の北海道大学のスタッフの方々には、この場を借りてあらためて深い感謝の意を表したい。また大会の準備に献身的にたずさわってくれた学会事務局の2人の書記、丸山理絵さんと漆原みゆきさんにも、御礼の言葉を述べておきたい。