Site Web cahier ── 書評・エッセー・研究レヴュー

年2回発行されるcahier所収の書評とワークショップ報告に加えて、
フランス語・フランス文学に関するエッセーや研究レヴューを随時更新していきます。

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その他の研究レビュー

18世紀フランス研究会レヴュー

2012年4月10日 10時04分 [sjllf]
新学期が始まり、Site Web Cahier もようやく動き出します。
現在4本の「研究レヴュー」を用意しておりますが、第1段として「18世紀フランス研究会」のレヴューをお届けいたします。今後も会員の皆様にはレヴュー等の執筆依頼をさせていただくことがあります。その折はぜひお引受けいただければ幸いです。

18世紀フランス研究会レヴュー(review_18siecle:France.pdf):阿尾 安泰
(更新:2012年5月31日 17時18分)
18世紀フランス研究会レヴュー
2012-04-10 [sjllf]

書評コーナー

過去の書評・エッセー・研究レヴュー

2008年8月31日 13時46分 [WEB担当]

工藤庸子『宗教 VS. 国家 フランス〈政教分離〉と市民の誕生』

書評


 

宗教VS.国家 (講談社現代新書)

作者: 工藤庸子
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 2007/01/19
メディア: 新書
購入: 5人 クリック: 41回


評者:西川長夫(立命館大学

 本書の著者、工藤庸子さんは、フランス恋愛小説論やとりわけフローベール研究、コレット研究などで知られた、どちらかと言えば典型的なフランス文学者であったから、2003年の大著『ヨーロッパ文明批判序説』の出版は、私たちかつての読者にとっては一大事件であった。今回の『宗教 VS. 国家』は『ヨーロッパ文明批判序説』の続篇とみなすことができるが、新書という小著の形をとっているだけに、著者の「転身」とその意図がより鮮明に読みとれるのではないかと思う。

 工藤さんの「転身」(「変容」と言うべきかもしれない)が、時代の急激な変化に伴う大学における機構や理念の変化を背景にしていることは否定できないだろう。じっさい多くのフランス文学者や外国文学者が、旧来の古典的な文学研究のポストを奪われ、文明論や比較文化論その他の領域への転出を強いられており、そのことで悩んでいる人は多い。工藤さんの「転身」はそうした悩める後輩たちに勇気を与えるものだと思う。だがそれは工藤さんが新しい制度と新しい研究領域にうまく適応したということではなく(もちろん本書を一読してわかるように、新しい領域に踏み入る際の著者の慎重な配慮と超人的な努力―それは同時に新しい世界を知る喜びでもあるだろう―には敬意を表さざるをえない)、かつて文学研究にまっとうに打ちこんだ人の蓄積された知識や能力、方法論や語学力、そして繊細な感受性などが、そこで十分な力を発揮しているということである。

 『宗教 VS. 国家』をひとつの「挑戦」の書物として読むことができると思う。歴史学者や社会学者や政治学者に対する文学研究者の(より正確には「小説読み」の)挑戦である。著者は「はじめに」の最後のページで次のように書いている。「そこで今回は、文芸批評などにはこだわらず、小説を率直に読んでみる。テクストに書かれていることを確認してゆけば、歴史学や社会学の文献には描かれることのない、生きた人間たちの心情や生活が、おのずと見えてくるだろう。」(p.12)歴史学や社会学は、この挑戦をどう受けとめるだろうか。だが小説をこのように読むことは、小説の読み方(したがって文学の概念)を変えることにもつながるだろう。

小説の読者は主として女性であった。したがって「小説読み」の挑戦はまた同時に男性社会に対する女性の側からの挑戦を意味することになる。著者は同じページでさらに続けて次のように言う。「これもまた小説好きの関心といえるかもしれないが、当時、女性はどこにいて、何をしていたか、女性の視点からすると世界はどのように見えていたのかと、折あるごとに問うてみたい。19世紀はヨーロッパ文明の歴史のなかで『性差』の距離が最大限に開いた時代だった。教育の現場や、司祭による『こっかい告解』や、修道会のような空間で、いったいどのようなことが起きていたのだろう。」

 ヴィクトル・ユゴーの生涯と『レ・ミゼラブル』の読解に当てられた第1章では、ユゴー自身と登場人物の生涯を通して、カトリックと共和主義の入り組んだ複雑な関係がたどられ、市民としての「尊厳」と、「人間の生と死は宗教が司るものなのか、それとも国家が管理するものなのか」という、ライシテ(政教分離)の基本問題が提示されている。「制度と信仰」と題された第2章では、コングレガシオン(修道会)やモーパッサンの『女の一生』にも出てくる「告解」のエピソードが興味深い。解放されるべき女性は、聖職者と組んで共和国の保守派を形成し、それが革命の国フランスにおける女性参政権の際立った遅れをもたらした、という解釈である。「ルルドの奇蹟」や「修道院で育った娘たち」のことも、ここでは「小説読み」の視点から見事に描かれている。それは歴史家や社会学者が苦手としてきたテーマである。

 だが本書の中心をなすのは何といってもジュール・フェリーを扱った第3章であろう。もっともこの章は「小説読み」の威力が最も弱まる部分でもある。なぜならこの「〈共和政〉を体現した男」について述べるためには「小説」よりは歴史家や伝記作家の証言に頼らざるをえないから。そしてこの著者には珍しいラジカルで断定的な表現が多くなるのもこの章以降のようである。例えば、「確認しておきたいのは、『共和国万歳!』と叫ぶ一般市民を武力で鎮圧することによって、第三共和政が成立したという事実である」(p.96)、「フランスの第三共和政は、きわめてマッチョ的な植民地帝国でもあった」(p.126)、「コングレガシオンは植民地政策のなかに組みこまれていた。(…)第三共和政のフランスで、「文明化の使命」を掲げて海外進出を説いたのは(…)保守勢力ではなく共和派だった。そして植民地帝国の現場では、政教分離を主張しなければならない理由など存在しなかった」(pp.162-163)。

 その他本書には、スカーフ事件や、アソシアシオンと市民社会の問題など、興味深い指摘が多いが、紙幅が尽きたので断念せざるをえない。近代フランスに対する私たちのさまざまな偏見や盲点のありかを教えてくれる、刺激的な好著だと思う。
2008年5月24日 16時37分 [WEB担当]

2008年度春季大会

大会基本情報


 日 時 2008年5月24日(土)、25日(日)
 会 場
 青山学院大学
 参加者
 518
 研究発表 30
 講 演 Mary-Annick MOREL氏(Université de Paris 3)
  Une autre grammaire du sens―Intonation, geste et morphosyntaxe
  レジュメ
 WS1 Enseigner la littérature ?
 WS2 翻訳の社会学
 WS3 メランコリーの地平
 WS4 フランス語教育スタージュ―過去、現在、未来

2008年5月1日 00時00分 [WEB担当]

テクストの生理学


 

テクストの生理学


作者: 柏木隆雄教授退職記念事業会
出版社/メーカー: 朝日出版社
発売日: 2008/05
メディア: 単行本
購入: 1人 クリック: 3回


2008年3月31日をもって定年退職される柏木隆雄教授にささげられた論文集が完成しました。大阪大学フランス語フランス文学会にくわえ、バルザック研究会の協力を得、学内外あわせて41名の方々から論文が寄せられ、ついに刊行となりました。

もっと詳しく→大阪大学フランス文学研究室
http://www.let.osaka-u.ac.jp/france/seirigakumokuji.html
2008年3月21日 16時31分 [WEB担当]

フランス語フランス文学研究No92

学会誌

Études en français
La provocation (?) de Rousseau ― L'implicite dans la «dedicace» du second Discours
越森彦(KOSHI, Morihiko) 3

Marcel Schwob vu par Léon Daudet ― un écrivain juif dans le courant antisémite
鈴木重周(SUZUKI, Shigechika) 18

Rome fin de siècle chez Bourget et chez Zola
田中琢三(TANAKA, Takuzo) 34

La poésie réaliste de Maupassant
足立和彦(ADACHI, Kazuhiko) 51

Le réalisme géographique chez Proust ― autour de la mystification du lecteur sur la situation de Balbec
川本真也(KAWAMOTO, Shinya) 68

Le rapport entre Léonard de Vinci et Faraday dans l'Introduction à la méthode de Léonard de Vinci de Valéry
木村正彦(KIMURA, Masahiko) 84

Le roman comme construction poétique ― A propos de «Technique du roman» de Raymond Queneau
久保昭博(KUBO, Akihiro) 104

«Il y a» de l'image ― Sartre, Lévinas, Blanchot
郷原佳以(GOHARA, Kai) 122

研究論文(欧文要旨付)
Quel...!型感嘆分の考察 ― その質的意味とクラス同定機能
Réflexion sur la phrase exclamative du type «Quel...!» ― Sa valeur qualitative et sa fonction de l'identification d'une classe
山本大地(YAMAMOTO, Daichi) 141

『ギヨーム・ド・ティール年代記続篇』の未発表断片写本について
Fragment inédit d'un ms. de la Continuation de Guillaume de Tyr
小川直之(OGAWA, Naoyuki) 155

メリーという名から飛び立ったもの ― 個人宛詩篇の公開から考えるマラルメの1896年
Ce qui a quitté le nom de Méry : l'an 1896 où parurent trois poèmes privés de Mallarmé
永倉千賀子(NAGAKURA, Chikako) 169

言葉の暴力 ― ベルクソン哲学における比喩(トロープ)の問題
Force du langage ― La question du trope dans la philosophie de Bergson
藤田尚志(FUJITA, Hisashi) 198

研究発表要旨
中等教育におけるe-Learningの展開
山崎吉朗(YAMAZAKI, Yoshiro) 201

ルソー『新エロイーズ』の文体における音楽的要素 ― 韻律の分析を中心に
原田裕里(HARADA, Yuri) 202

フロベール『純な心』におけるフェリシテの「盲信」について
橋本由紀子(HASHIMOTO, Yukiko) 203

ランボーの錬金術 : 「母音」,「H」の生成
折橋浩司(ORIHASHI, Koji) 204

マラルメの「典型」について
福山智(FUKUYAMA, Satoshi) 205

植民地主義の暴力と伝統社会の軛 ― ムールード・フェラウン『大地と血』におけるカビリー社会の表象
茨木博史(IBARAKI, Hiroshi) 206

マルローにおけるフロイト ― 『反回想録』序文
大貫明仁(OONUKI, Akihito) 207

『グラマトロジーについて』再考 ― 一ソシュール研究者からの遅れた応答
金澤忠信(KANAZAWA, Tadanobu) 208

非常事態にあるシュルレアリスム ― 戦後ジョルジュ・バタイユの評価から
丸山真幸(MARUYAMA, Masayuki)209

カストール絵本における絵の力
松尾春香(MATSUO, Haruka) 210

メロドラマの中の父性 ― なぜ父は盲目なのか
浦山健太郎(URAYAMA, Kentaro) 211

Pierre Loti ― malheureux ou farceur?
TURBERFIELD, Peter 212

記念碑の外へ ― マラルメ「ヴェルレーヌの墓」分析
熊谷謙介(KUMAGAI, Kensuke) 213

LE COMBAT DE JACOB
FONDVILLE, Geneviève 214

クロード・カウンの『ヒロイン達』における新しい女性の神話
西岡道子(NISHIOKA, Michiko) 215

『失われた時を求めて』における遅れの意識について
岩津航(IWATSU, Ko) 216

表現と自覚 ― シモーヌ・ヴェイユの思索をめぐって
今村純子(IMAMURA, Junko) 217

遊戯と記憶 ― クロード・シモン『歴史』をめぐる考察
熊野鉄兵(KUMANO, Teppei) 218

マルグリッド・デュラスにおける「記憶」と「忘却」のエクリチュール
関未玲(SEKI, Mirei) 219

ユダヤ人の超自然的使命 ― カトリック的反ユダヤ主義のなかのレヴィナスとマリタン(1921~1942)
馬場智一(BABA, Tomokazu) 220

日本フランス語フランス文学会2007年度春季大会