ジョルジュ・サンドを21世紀に研究することの意味は何か?
ジョルジュ・サンドを21世紀に研究することの意味はなにか?
パネリスト | 坂本千代(神戸大学) 西尾治子(慶應義塾大学) 高岡尚子(奈良女子大学) 渡辺響子(明治大学) |
各パネリストの発言時間は15分程度で、一人の発言が終わるごとに20分ほどの討論を行うという形で進行した。
一番目の高岡さんのテーマは「サンドの創作活動:現実からフィクションへの道程」。サンド作品の創造過程の特徴の一つは、現実に取材した物事の中に問題を見つけ、それに対する解決を、美しい形、あるべきものと思われる形に作り上げて提示する、つまりイデアリザシオンにあるとし、その読み方としては、できあがった完成形としての理想を読む、あるいは単なる作者個人の夢として退けるというよりも、むしろフィクションの根底に存在するサンド特有のレアリスムと、それがずらされてイデアルに向かって行く過程に注目すべきであろうと言うのが高岡さんの主張であった。
二番目の渡辺さんのテーマは「サンドにおける芸術」。渡辺さんはサンド小説に現れる芸術家のタイプを分類し、ある特定の分野におけるイエラルシーの問題と、異なる芸術間の移行について述べた。そのあと、サンドの創作過程におけるノアンのマリオネット劇場の重要性が指摘された。サンドは、より真実に近い人間心理に近づくため、単純化し典型化した登場人物を分類し、あたかもマリオネットの人形のようにそれを作品内に置いて自由に動かしていたのである。
最後は西尾さんの「ジョルジュ・サンドと第三の性:横断と変容・流動と継承」。サンドはフロベールの言う「第三の性」ではないとするReidの論に対し、西尾さんは初期作品群のヒロインたちの分析を通し、「第三の性」とは19世紀の男女役割分担意識では定義しえない、性差を超越し自由闊達に生きる作家像、継承されていく「自由な創造者」を象徴する言葉であり、そこにサンドの創作姿勢を見ることができるのではないかという「第三の性」肯定論を展開した。
本ワークショップ参加者は30人弱とやや少なめであったが、フロアから多くのコメントや質問があり非常に充実した内容であった。(坂本)