(5)ケベックの文学状況
Co. パネリスト | 小畑精和(明治大学) 寺家村博(拓殖大学) 藤井慎太郎(早稲田大学) ジャン・クラヴェ(ケベック州政府在日事務所代表) |
北米大陸という強大な英語圏で、経済のグローバル化と文化の固有性を謳うケベックは現在注目の地域である。そこで、文学はいかなる状況にあるのか、いくつかの角度から迫ってみた。ケベック社会は、1960年代の「静かな革命」と呼ばれる急速な改革期以後、カトリック教会の説く精神論から解き放たれ、現実的な政治的・経済的・文化的自立を遂げていく。一方で、移民の出身地が多様化し、女性が社会進出を果たし、少子化が進み、社会も大いに変化してきた。
このワークショップでは、まず、寺家村博・拓殖大学助教授が、「フランス語憲章」(101号法)を中心に言語政策について丁寧に報告し、カナダの他地域や世界のフランス語圏フランコフォンとの連帯などにおいて、ケベックが果たしている重要な役割にも言及した。次に、藤井慎太郎・早稲田大学助教授がケベックを表象するものとして舞台芸術について発表した。現在、ミシェル・トランブレーらの演劇と並んで、言語に頼らない様々なパフォーマンスがケベックでは盛んである。それをアイデンティティの問題や文化政策とからめて論じた報告は興味深いものであった。
続いて、ケベック州政府在日事務所代表のジャン・クラヴェ氏に、作家や芸術家の保護はもちろん、受容の促進、国際化への援助など、文化政策の概要を説明していただいた。文化担当官に代わって自ら学会に来て報告いただいた氏にあらためて感謝したい。最後に、ケベック文学の変遷を明治大学教授小畑精和が報告した。そして、「静かな革命」期においてはアイデンティティ探求が主要なテーマであったが、80年代以後演劇同様小説も「アイデンティティの確認ではなく、複数の疑問を培うエクリチュールの交差点 」となっていると締めくくった。
このワーク・ショップを通して、少しでも多くの仏文学会員にケベックへの関心を高めていただければ幸いである。