Balzac : la question du style
Eric BORDAS教授
(Universite de Paris III)
司会 柏木隆雄(大阪大学)
エリック・ボルダス氏は今年40才、19世紀文学を中心として精力的に活躍する気鋭の学者として知られている。今回フランス大使館招聘教授として本学会で≪ Balzac et la question du style ≫と題して講演、持ち前の博識を駆使しての明快な議論にほぼ満席の会場で学会員が熱心に聴き入った。
「バルザックとその文体の問題」と題しての講演は、まずバルザックが多作の作家であるために蒙った「悪筆」という評価に関して、多くの文学者、批評家の言を引きつつ、彼の「悪筆」評に2面のあることを明らかにする。バルザック自身もそのことを自覚し、ハンスカ夫人にも ≪ style ≫の必要を訴えていた。しかし寝る間も惜しんで執筆に余念無く、多くの作品を生みだそうとするのは、まさしく当時の「ブルジョワ的キャピタリスム」を体現する行為にほかならず、それは当然古典的美学とは相容れないものだった。そこでバルザックに関する2つの相反する評価が生まれてくる。すなわちサント・ブーヴやブリュンヌティエールなどの「悪文家」説、ゴーティエ、テーヌなどが称える「悪文ながら力量と独創性に富む作家」説。じっさいこの評価はフロベール、ゾラなども後者の評価を受け継ぎ、ロブ=グリエなどに至ってバルザックの文体と内容との関係が問題にされることになる。しかしバルザックの本領はむしろそうした「混交した」、「純粋でない」文体にあるのであって、バフティンのいう「ポリフォニック」なところこそ重要で、彼がさまざまな階層の登場人物、また語り手の言葉を通して、「社会全体」のディスクールを聞かせることに務め、均一的な世界を形作るのはなく、そうしたポリフォニックな世界が相克する物語世界を構築したのだと結論する。会場からもいくつか質問が出て、氏が明快に、さらに引例して答えられなど、活気に満ちた講演会となった。