2006年度春季大会報告
ニュース123号(2005.7)より
総務 有田英也
2006年度春季大会は、5月20日(土)、21日(日)の2日間にわたって、慶應義塾大学三田キャンパスにて開催された。校舎のある丘から見上げると、すでに初夏の空が広がっていた。大会参加者総数は609名。昨今の会員数減を吹き飛ばすような盛会であった。
大会初日は、午前に各種委員会と研究会が開かれた。午後早くから幹事会、役員会が開催されたのに引き続いて、西校舎517教室にて、川口順二氏(慶應義塾大学)の司会のもと定刻に開会式が始まった。大会実行委員長を務める鷲見洋一氏(慶應義塾大学)が開会の辞を述べた後、開催校代表として文学部長の関場武教授から歓迎のご挨拶をいただいた。関場教授の鷲見氏へのエールに、すがすがしい校風を感じたものである。続いて塩川徹也会長が、フランス文学研究およびフランス語教育の現状打開を強く訴えられた。
その後、同じ階段教室で、柏木隆雄氏(大阪大学)の司会のもと、フランス政府招聘の文化使節Eric Bordas氏(パリ第3大学)の≪Balzac : question du style≫と題した特別講演が行われた。日本のバルザック研究者を鼓舞する口ぶりにお人柄がうかがえるとともに、バルザック受容を時系列に沿って丁寧に論じる姿に感銘を受けた。若い会員たちは、この20年で文体研究が根底的に変わったという示唆をどのように受け止めたのだろうか。特別講演の準備にたずさわった皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。
講演と質疑応答の余韻も覚めやらぬうちに、開場の随所で7つのワークショップが開催された(別掲記事参照)。すでに4回目となるこの企画は、すっかり定着した観がある。そのすべてに参加するには、Bordas氏の講演の言葉ではないが「主体の破砕」が必要なので、失礼をかえりみず途中参加させていただいた3つのショップについて書かせていただくことをお許し願いたい。東館のセミナー室では、港区小中高生フランス文学読書感想文コンクールの授賞式と感想文朗読が行われた。会場には幼稚舎の親御さんもお出でになっており、フランス大使賞および慶應義塾大学文学部長賞を射止めた二人の中学生の朗読に一同が聞き入った。地域、大学、そしてフランス大使館が協同する貴重な試みを、これからもなんらかの形で続けられたらと願う。とまれ関係各位のご尽力に感謝申し上げます。本会会員でもある日本カナダ学会の小畑精和氏(明治大学)がコーディネーターを務めた「ケベックの文化状況」では、文化創造に手間と資金を惜しまなかったフランス語圏の一拠点について、地域文化論的アプローチが試みられた。「文学会」と呼ばれることもある日本フランス語フランス文学会で、このような超域的なショップが持たれた意義は大きい。そして、Le FLE au Japonである。会場での配布資料にあるTable rondeという言葉から、この会をワークショップというより討論会にしようという意気込みがうかがえた。途中から3人の発表だけを聞かせていただいたが、「共通参照レベル」についての発表で、教員みずからが学生のパフォーマンスをビデオ録画して披露してくださったのが印象的だった。映像から習得度をどう評価してゆくかのプロセスもお話いただけたらよかったが、やはり時間が押したようである。関西大学の語学改革を、年度順に、とても明快に説明していただいた発表では、なるほどシステムの変化についての知識と見通しを、このようにしてfrancophone教員と共有するのかと感心した。あまりの盛況のため、また熱心に討論がなされたために、大幅に時間オーバーとなった。
懇親会は、東館8階のホールにて催された。宇佐美斉副会長が、すでに定番となった「副会長の仕事は乾杯の挨拶をすること」というひと言で会場を和ませた後、一同、シャンパングラスを掲げて乾杯。開催校の粋なはからいに感謝申し上げます。荻野アンナ氏(慶應義塾大学)の軽妙な司会のもと、フランス大使館文化部のJean-François Rochard氏の挨拶も交えて、167名の参加者が交歓の時を過ごした。読書感想文コンクール受賞者の姿も見られた。
2日目には、午前と午後に分かれて15の分科会が設けられ、38名の会員が研究発表を行った。パワーポイントを使う発表が、他の学会と同様、増える傾向にあり、発表者、開催校ともにご苦労があったと推測される。今回から学会誌編集が新しい制度に移行する。本会の存在意義とも言える研究発表の量と質が、これからも保たれるよう切望する。
その後、午後2時15分から、西校舎517教室で、佐野泰雄氏(一橋大学)を議長に総会が始まった。喜ばしいことに本会は日本学術振興会から刊行補助金を受給することになったが、受給条件を満たすため編集スケジュールを変更しなくてはならない。こうした議題をみごとに捌いて議事を進めてくれた佐野議長のおかげで、予定時刻の午後3時45分より少し前に、すべての議事はつつがなく終了した。
総会終了後、ただちに閉会式に移った。塩川会長が開催校と関係者に謝辞を述べたのに続いて、慶應義塾大学の小倉孝誠氏による閉会の辞をもって、本大会はその幕を閉じた。