フランス語教育の危機的状況を考える
フランス語教育の危機的状況を考える
パネリスト | 太原孝英(目白大学) 水林章(東京外国語大学) 岡山茂(早稲田大学) 明石伸子(早稲田大学非常勤) |
このワークショップは、現在の日本の中等教育・高等教育において、多くの教員が直面している「危機的な状況」について、本会としても何らかの対応を迫られているという認識のもとに、語学教育委員会の企画によって開かれたものである。フロアには70人以上の方にお集りいただき、会員の関心の高さをひしひしと感じた。水林氏は、フランス語学習者増加の一案として、東大で昔から行われている英語入試における複数言語選択制度の普及を唱えられ、また本会の大会において「研究発表」とは違った形での教員同士の経験交流の場を作ったらどうかと提案された。また、岡山氏は、近来、大学において言語を単なるコミュニケーションの道具として捉える言語観が優勢となり、語学教育においても実用性のみが考慮される傾向になってきたこと、また非常勤講師の立場を改善せぬまま、それに依存する態勢を維持してきたことが、今のフランス語教育の危機につながっているという論を展開された。明石氏は、豊富な資料を提供して下さり、本会で2000年を最後に行われていない語学教育に関するアンケートを行って現状の把握をすること、また日本国内にも体系的に教授法を学べる教育機関を作る必要があり、それが今度のフランス語教育のあり方を左右するということを訴えられた。その中で、フロアからはもっと教育現場で学生が楽しめる空間を作ることが重要であるということや、大学の入試科目からフランス語が外されることの危機感が訴えられたが、それらを総合すると、解決へのキーワードは、「連携」「連帯」ということだったように思う。会員のそれぞれが、それぞれの立場でフランス語教育の現状に危機感を持っているのに、横の連絡がそれほどなされていないということは、このワークショップの時間内でも明らかになったことである。たとえば、大学教員の方も中学高校でのフランス語教育の拡充を訴えているのに、中高と大学の教員同士の連絡はさほど密とは言えない。今後、本会が考えなければならないことは、中学高校と大学の教員間の連携をはじめとして、本会と独文学会などの他学会との連携、そして何より本会会員全体の連携を進め、情報を共有し合いながら、それを学校の制度面や教育現場に活かして行くということだろう。コーディネーターとしては、本会に対して具体的な提言ができれば一番良いと考えていたが、語学教育に関する初めてのワークショップで、限られた時間の中では、結果としてやはり問題提起の色彩が強かったと思う。今後もこうした話し合いを継続して行うべきであるということについては、フロアを含めてコンセンサスが取れたと思うので、次回以降の大会でも、同様の話し合いの場が設けられて、議論を継続して行ってもらいたいと切に願っている。最後に、コーディネーターの要請に応えて、このデリケートな問題に立ち向かい、有意義な提言をして下さった3人のパネリストの方には心から感謝の意を表したい。(太原)