ジャック・デリダとジャン=リュック・ナンシー 友愛と共同性
コーディネーター・パネリスト:市川 崇(慶應義塾大学)
パネリスト:柿並良佑 (山形大学)、伊藤潤一郎 (日本学術振興会特別研究員)
松田智裕 (立命館大学初任研究員)
現代フランスの代表的哲学者ジャック・デリダ(1930-2004)とジャン=リュック・ナンシー(1940-)との間 には、深い友愛があったこと、また思想上の強い類縁性があることは知られている。二人の哲学者の思想上の交流は、1965年にナンシーがデリダの雑誌論文「グラマトロジーについて」を読み、デリダの思想について「注釈」というテクストを記し、デリダに送付したことから始まるが、ナンシーは1980年にはフィリップ・ラクー=ラバルトと共にデリダの思想をめぐるシンポジウム「人間の終焉/目的」を開催し、またデリダの没年である 2004 年にも
「ストラスブールで思考する、デリダと共に」を開催している。その間、ナンシーはデリダについて多くの論文を執筆しており、2019 年には、1987 年から 2017 年に発表された代表的なデリダ論をまとめた『デリダ, 代補(補遺)』が刊行された。本ワークショップでは、この『デリダ, 代補(補遺)』に収められたデリダ論を出発点に、両哲学者の思想の近接性と差異を考察することが目指される。
司会兼パネリストの市川は、『デリダ, 代補(補遺)』に再録された「ユダヤ・キリスト教的なもの」における「信」の概念を取り上げ、デリダが『信と知』において提示した「信」をめぐる考察との差異に注目し、それが両者それぞれの民主主義解釈にどのような方向性を与えているのかを問う。柿並良佑は、デリダが『友愛のポリティックス』において、ナンシーの「(友)愛と共同体」についての思考に対して行なった批判的読解を『無為の共同 体』に立ち戻って検討する。伊藤潤一郎は、『デリダ, 代補(補遺)』の序文でナンシーが語るデリダの声の「調性 tonalité」についての回想に注目し、ナンシーにおける「調性」、「意味/方向 sens」などの概念の射程、またこの点をめぐるデリダ哲学との距離の測定を試みる。松田智裕は、1975年に「哲学教育研究グループGREPH」を創設したデリダとナンシーが哲学教育改革のみならず、哲学の変貌を考えていたことに注目し、1977年に発表された「ヘーゲルの時代(年齢)」(デリダ)、「第五学年における哲学」(ナンシー)に見られる両者の思想の「近さ」と「遠さ」を検討する。
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