2018年度秋季大会ワークショップ1
見えるもの、見えないもの―19 世紀幻想文学再考―
コーディネーター・パネリスト:梅澤 礼(富山大学)パネリスト:中島 淑恵(富山大学)、足立 和彦(名城大学)
フランスにおける幻想文学は、1950 年代のカステックス、60 年代のカイヨワの研究によって注目された。その流れを決定的なものにしたのは、幻想とは「怪奇」と「驚異」の間の「ためらい」であるとしたツヴェタン・トドロフであった。しかしそのトドロフも2017 年に亡くなり、2018 年度刊行の LITTERA 第 3 号においてピエール・グロードは、トドロフの理論がいくつもの問題点を抱えていることを指摘している。そこで本ワークショップでは、発表以来50 年を迎えようとするトドロフの理論をいったん保留し、我々自身の視点から幻想文学を読み直すことを試みたい。具体的には、19 世紀幻想文学を代表するメリメ、ゴーチエ、モーパッサンの作品を取り上げ、主に「視覚」の観点から幻想の表象を考察する。それぞれの作品において、不可解なものはどのように知覚されるのだろうか。梅澤はメリメの『煉獄の魂』が、見える恐怖だけでなく見えない恐怖によっても支配されていることに注目し、この「視覚」以外で感じられる事物によって作品世界の整合性がどのように保たれているのかを考える。中島は、ゴーチエの『死霊の恋』において、死霊との直接的接触(触れられる、交わる、血を吸われるなど)によって喚起される違和感について考察することから、幻想文学における幻覚について検討を加えたい。そして足立は、モーパッサンにおいて「見えないもの」がなぜ恐怖の対象となるのか、「見えないものを見る」というアポリアは何を意味するのか、『オルラ』に至る作品を通して考えることで、実証主義の時代の恐怖を分析する。幻想は実に幅広い主題である。会場との活発な意見交換を通して、幻想文学を再考する可能性と意義について、多くの研究者と認識を共有できれば幸いである。