2017年度秋季大会・ワークショップ8ラスコーの曙光から
~バタイユ、シャール、ブランショ~
福島勲 (コーディネーター、北九州市立大学)
吉田裕 (早稲田大学)
吉本素子 (早稲田大学)
郷原佳以 (東京大学)
およそ二万年前の人類が描いたとされるラスコー洞窟の壁画は、芸術の誕生を、人類の誕生を標すものとし て、1940 年の発見以来、多くの作家・詩人・思想家・芸術家たちにさまざまな着想を与えている。今回のワー クショップでは、ラスコー壁画ないしはそれを題材とする作品について思索・創作した作家・詩人たち、具体 的には、バタイユ、シャール、ブランショらを比較検討することで、ラスコー壁画が現代文学に残したインパ クトを測るとともに、彼らの差異と共通性を浮かび上がらせてみたい。
最初に、福島は、ラスコー洞窟をめぐる概括的な導入を行う。その上で、バタイユからデュラスに至るテクス トを通じて、洞窟壁画が先史時代の人類の記憶の場、記憶装置として機能していることを論じる。
次に、吉田はバタイユのイマージュ論を扱う。1940 年のラスコーの発見は、バタイユにとって芸術のはじ まりを考えるための絶好の契機となり、55 年のスキラ社からの『ラスコー』に結実する。洞窟には多数の動物 像とひとつだけの人間像があり、この対比について彼はたしかに独特な解釈を示していて、それがしばしばこ の書物の主題だとされるが、今回の発表ではそれよりも、バタイユがイマージュ形成の理由と様態そのものに 関心を持っていたという見地から、その過程がこの書物でどのように捉えられたかを検証していく。
三番目に、吉本はシャールを扱う。とりわけ、René Char, « Lascaux » dans la Paroi et la prairie(Paris, G.L.M., 1952. Textes reproduits dans René Char. Dans l’atelier du poète, Marie-Claude Char éd., Paris, Gallimard, coll. « Quarto » , 1996, pp. 671-673)を対象とし、このテクストの形、思想、魅力、シャールの 全作品の中の位置、バタイユ、ブランショとの関連について考察する。
最後に、郷原はブランショを扱う。ブランショは 1953 年、ラスコーの壁画を題材としたシャールの詩「名 づけようのない「獣」(1952)に触発され、「ラスコーの獣」というテクストを発表し、1958 年に書籍化した。 シャールへのオマージュと言うべきこのテクストにおいて、ブランショはしかし、直接シャールを語るのでも ラスコーの壁画を語るのでもなく、書かれた言葉に対するソクラテスの恐れを想起させ、その対蹠点にいる者 としてのヘラクレイトスにシャールを重ね見ている。他方、1955 年には、バタイユの『先史時代の絵画:ラス コーあるいは芸術の誕生』(1955)を承けて「芸術の誕生」という論考を発表している。このように、ブラン ショのラスコーへの言及はつねに他者のテクストを契機としているが、そこには言語と芸術に関するいわば独 自の歴史意識が見て取れる。以上の 2 篇のテクストからそのことが示されていく。
4つの発表のあと、登壇者による討論と会場との質疑応答を予定している。