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日本フランス語フランス文学会
 

お知らせ




いま、パスカル・キニャールを読むこと——コレクション刊行をきっかけに 


磯﨑憲一郎(作家、東京工業大学)
小川美登里(筑波大学)
博多かおる(東京外国語大学)
桑田光平(司会:東京大学) 

 2016 12 月から水声社よりパスカル・キニャール・コレクションの刊行がはじまった。このコレクションは、キニャールのライフワークともいえる「最後の王国」シリーズ(現在、フランス語で第九巻まで刊行)を中心に、最新刊『涙』や小説『約束のない絆』、さらには短編集、ダンス論(『ダンスの起源』)、イメージ論(『はじまりの夜』、原題 La Nuit sexuelle)などを含むもので、すでに多くの小説の翻訳が存在してはいるものの、「あらゆる形式」を駆使して作り上げてられている主著「最後の王国」シリーズが日本の読者のもとに届けられることで、作家キニャールの全貌が明らかになると言っても過言ではないだろう。

 若くしてルイ=ルネ・デ・フォレにその才能を見出され、ボヌフォワ、デュブーシェらによって創刊された雑誌『レフェメール』に難解ともいえる評論や小品を発表することで作家としてのキャリアをスタートさせたキニャールだったが、その後、出版社の原稿審査員をつとめながら、いかなるグループや流派にも属すことなく、独自の文学世界を構築していった。歴史の時間と歴史以前の時間——キニャールはそれを「往古」(jadis)と呼ぶ——がもつれ合い、言語と沈黙あるいは言語以前が溶け合うようなその作品世界は、ラテン語文化を中心に古今東西のさまざまな文化に関する豊穣な知識に裏打ちされたものであり、その博覧強記が、時に読者を遠ざけてしまうことすらある。本ワークショップの目的は、難解とも博覧強記とも言われがちなキニャールの文学世界に対していかなる接近が可能かを探ることにある。それは、キニャールが自らの死に場所として決めている「最後の王国」への入り口を探すことでもあるだろうし、読者がいかにして自らのさまよえる「影」を探しだすかということでもあるだろう。

 小川は「影」のテーマの多義性とその射程を探り、同時代の文学と距離を置く態度から生み出される、キニャール独自の文学観を明らかにする。博多はキニャールの小説作品と『最後の王国』等の関係に注目しつつ、音楽、色彩、影について考える予定である。また、作家でキニャール作品の愛読者である磯崎憲一郎氏には実作者としての立場からキニャールについて語っていただく予定である。